雑記

人の話を聴く③ 妖怪が見える

ある知人が私に声をかけてきました。少し相談があると。

「夜、まぼろしを見て困っている。」

まだ、カウンセリングの看板を上げる前のことです。

突然のことでしたし、なんで私にと面食らったのが正直な思いでしたが、すぐ頭を切り替えて、詳しく聴くことにしました。いわゆる幻視という現象のようでした。

安定剤の処方は受けているとのことでしたので医療受診については問題ないと考え、私は次のように言いました。
「僕はきみのご家族のように「大丈夫だから寝てなさい」なんていわないよ。きみが怖い妖怪のようなものを見てしまうというのも本当だろうし、とても苦労されているのがわかるから。」

彼の顔を覗き込むようにして次のように続けました。
「でも、本当は自身でわかっているのではないかな。だって、きみ自身がその妖怪を「まぼろし」と言ったじゃない。「まぼろし」だから、いずれ解決すると思うよ。」

彼は少し安心したように言いました。
「なるほどそうだね。君にはカウンセリング料を払わなければならないねえ。(笑)」

初回はこんな感じでした。

2,3日して、再び相談がありました。やっぱり幻視があると。私は次のように言いました。
「それでは、こうしてちょうだい。今晩、妖怪が出たら、何の抵抗もせずに、耐える。そして、抵抗しなかった場合、最後そいつはどうなるかをよく観察して僕に教えて欲しい。」

次の日、彼から報告がありました。
「やっぱり出てくるんだけど。」
「それはそうだよ。それよりも、何も抵抗しないというのはやってみたの?」
「抵抗しないと家族を襲おうとするから」
「家族に何かされてしまうというのを見過ごせない気持ちはわかるけど、それでも何もせずに耐えてみてよ。」

そして次の日、このように報告がありました。
「何もしないとそのまま消えてしまった!」
「そう。それなら、しばらく、『何も抵抗しない、こちらからは一切手を出さない』というのを続けてね。必ず、約束だよ。」

1週間ほどしてから彼から「昨晩は出なかったよ!」と報告がありました。私はそれを聴いて安堵で胸をなでおろしました。

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この経験は、その頃の私にしてみれば、とてつもない大事業であったように記憶しています。また、「妖怪を観察する」とは、我ながら良く発想したなと振り返ります。つまり、問題の対象を客観視するという具体的な心理療法を実践していたわけです。

ただ、今の私なら、妖怪が象徴するものは何か、注意深くそれを探り、原因の根本的な解消を目指したいと思います。